パスポートのゆくえ

わたしは秘書をしていたとき、海外の研究者(教授や助教)も複数人、担当していました。その中に V 先生というフランス人助教がいました。研究期間は約1年で、半年ほど経ったころでしょうか、ある朝お電話がありました。

V 先生は神戸の国際コンファレンスに向かっているはずなのですが……


「パスポートをなくした! どうしよう。電車で寝てしまって、神戸で飛び降りたら、パソコンケースしか持ってなかった。パスポートとプレゼンの書類の入ったかばんを電車に置き忘れてしまった……」


とパニック状態でした。


「先生、落ち着いてください。今日のプレゼンはできませんか? パソコンがあるなら、会場で必要書類を印刷できますね? 」


そして、何車両目くらいに乗っていたのか、座席はどのあたりだったのか、何時に神戸に着いたのかを確認し、駅員さんに代わってもらいました。


「それはきっと『播州赤穂行き』ですね。電車が赤穂に着いたら、確認します」


駅員さんがおっしゃったことを V 先生に伝え、コンファレンスに向かっていただきました。


わたし自身、先生の不安はよくわかりました。同時に「パスポートなくしたの? わたしの仕事が増える!」とイライラも若干ありました。


お昼休みも電話口で待機か……としょぼんとしていたら「かばんがありましたよ! 」と駅員さんからお電話がありました。もちろん、パスポートが入っていることも確認していただきました。万歳!


コンファレンスが終わったのは、午後4時ごろだったと思います。V 先生にお伝えして、わたしの役目はおおむね終了しました。

先生はパリ出身です。あの大都市なら、パスポートが戻ってくることは無いでしょう。翌日秘書室にいらしたら「日本はいい国です」だって! お礼でクッキーもいただきました。

映像翻訳者 mizuki

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